タクミです。
Twitterで話題になっていた「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」を読みました。
地方から東京に上京して、恵まれない家庭環境から勉強して早慶に入学したのに、大学や会社に馴染めず、3年も経たずに辞めてしまった人や、
憧れの港区に住むも思ったようなキラキラ生活ができず、Tinderで軽い遊びをしているだけの人など、「東京にきたけれどうまくいかなかった人」のエピソードがたくさん出てきます。
本書は大学は「早稲田大学」「慶應義塾大学」「地方国立大学」、企業は「メガバンク」「広告」「総合商社」など、いわゆる「東京カレンダー」「東京女子図鑑」のように、他人を見下している人が出てきます。
また、住む場所マウントも鮮明に描かれており、特に麻布十番周辺の地名が詳しく書かれているので、著者は麻布在住の時期があったのでは、と思います。
私自身も「元」麻布在住でして、南麻布に2年半住んでいましたので、本書の中に出てくる地名が懐かしく感じました。
どちらかといえばネガティブなエンディングを迎えるエピソードが多いのですが、共感できるものも多かったので、ご紹介します。
30歳が人生のリミット?「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」を元麻布住みの男が読んでみた
地方から東京の大学(早稲田・慶応)に入学して、東京の企業に入社して、華の東京ライフを満喫する。
そのような願望を持って勉強や就活を不器用ながら頑張ってきたのに、メーカーに勤務したら地方勤務に配属され、環境に適合できず休職してしまう。
別の人は、東京に住むことに憧れがあり、電通でバリバリ働き念願のマイホームを清澄白河に購入したけど独身。元カレのような関係の大学時代の男は別の女性と結婚し、東京ではなく、流山おおたかの森に住む。そんな男をバカにする。
本書に登場する主人公達はたくさんいます。皆、思い通りにならなかった知人のことを見下してはいるものの、自分自身も思い通りにならない人生であることに気づいてしまうわけです。
人間はマウントする生き物。ということが、本作の登場人物から伝わってきます。
人生でうまくいかない状態になったら、他人を見下して相対的に自分を優位にしてあげるだけで、自分は何一つ変わることなく、勝ち組の人間のように感じられます。だからこそ、人を見下すわけです。
東京女子図鑑でも、秋田から上京した女性が、東京の街をグレードのように捉えて、次々にオシャレで高級なイメージの街に引っ越す、というストーリーでした。
東京を頂点にしたヒエラルキーのようなものを感じ、それを得ることで自分自身が魅力的になったかのように感じる。
本書はフィクションなのか、ノンフィクションなのかは不明ですが、フィクションであっても、限りなくノンフィクションに近いエピソードが散りばめられています。
私タクミ自身もまさしくそうです。東京生まれですが、幼少期は足立区のアパートや団地で過ごしており、都心への憧れが非常に強かったことから、神楽坂、南麻布、千代田区と高級住宅地を転々としています。
どこに住もうが自分の価値は何も変わらず、家賃の負担が増えるだけ。客観的にはそのとおりですが、私としてはそれなりに幸せを感じています。
おそらく「都心に住むことが幸せ教」を信じ切っているからかもしれません。
信じるものは救われるといいますよね。
実際に都心に7年間住んでいますが、オフィスへの通勤も楽で、買い物はなんでも近所にあり、コンビニやヤマト、郵便局は目を瞑ってどっちの方角に歩いても見つかるくらいの場所にいますから、本当に便利で快適な生活を謳歌しています。
ただ、このような生活ができているのは「都心に住めるだけ稼げる企業にいる」「都心にオフィスがある」「パワハラ、激務で休職、退職をしていない」という3点を満たしているからです。
どれか一つでもうまくいっていなければ、私は今のような楽しい生活を謳歌し続けることはできません。
パワハラで休職すれば、都心に住み続けるだけの給与はもらえませんし、地方のグループ会社に出向させられる可能性もあります。
今は「たまたま」うまくいっているだけで、いつでも都落ちする可能性は隣り合わせなわけです。
本書では、他にも「パパ活しすぎて金銭感覚がマヒしてしまい、父親の奮発したディナーを安っぽく感じてしまった」人や、
「顔がいいというだけで高級住宅街のタワーマンションを借りてもらい、小さな頃から努力して女医になった姉の住む家賃を笑う」人など、「どこかにいそう」な人たちが出てきます。
しかし、どんな人も東京タワーが見えるような都心ライフの生活は送れなかった、という後悔を持ったまま、「30歳」になって「何者にもなれなかった自分」を振り返ります。
非常になまなましいですが、私自身、28〜30歳を南麻布のマンションで過ごしていたので、麻布で30歳になったときに「何者にもなれなかった」という感覚を強烈に感じました。
芸能人になるほどの才能もなく、ブログを書いてみても人気者にはなれず、東大の大学院から大企業に滑り込んだものの、資格も取れず、昇進試験も何度も失敗する。
南麻布のマンションから歩いて麻布十番、東麻布と行けば、東京タワーはいつでも見ることができます。
同じく南麻布のマンションから麻布十番、六本木と歩けば、いつでもTSUTAYA六本木や六本木ヒルズに行けます。アカデミーヒルズの会員でしたので49階で夜景と東京タワーを毎日眺めては、人生を謳歌した気になっていました。月1万円でできる贅沢です。
まさしく本書の登場人物のような気分でいましたが、仕事はうまくいっておらず、現実と理想のギャップに苦しみながら、六本木ヒルズを夜23時に出て、元麻布を歩き、仙台坂を下ってまたもや東京タワーとパークコート麻布十番や元麻布ヒルズの夜景を眺める日々でした。
今の企業で最速出世しても、年収は40歳で1500万円、50歳で2000万円くらいでしょうか。既に昇進試験で出遅れている私には縁のない話なので、よくても40歳1000万円、50歳でもほぼ同じくらいでしょう。
1万人以上も社員がいるのに、その中のトップ層になっても元麻布や南麻布のタワーマンションや低層住宅には住めない。そう考えると仕事のモチベーションも下がっていきました。
幸いにも、心機一転、千代田区に引っ越しをして、今の奥様と結婚をしたことで、港区ライフ時代よりは楽しい人生を送れています。30歳にして、ようやく幻想の世界から地に足ついたビジネスの世界に戻ってきたのです。
そんなことを、本書を読んで思いだしました。著者は1991年生まれだそうで、早生まれなら私と同じ歳、そうでないなら1つ下の年です。もしかしたら同じ時期に南麻布ですれ違っていたのかもしれません。
本書では、南麻布や東麻布のアパートや25平米もない部屋で生活している人が出てきます。私は20平米のマンションに住んでいましたから、まさに登場人物と同じ「見栄を張って麻布に住んでいる」人だったわけです。
高級なクラブにもいかず、派手な夜の遊びを一回もせず、ただ、お金を使わず古川橋を散歩したり、ちいばす(100円)で港区民ごっこをしてみたり。たまに高級スーパーのなにわやでヒレ肉(100g2500円)や、高級ローストビーフ(4000〜7000円)を買って脇汗をかいてみたり。
しかし、そんな質素ながらできるだけ多くのものを体験しようとしたおかげで、麻布、六本木、広尾、三田など、周辺の環境はほとんど散歩したので、どんなお店があって、どんな人が住んでいるのか、なんとなくわかるようになりました。
プライベートジェットのチャーターの話を道端でする40代後半くらいの男の人。テレビで見たことがあるベテランの女優さんのような人や、タレントさん。謎の黒塗りの車から出てくるスーツを着た人たち。
ただの会社員の私にとって、南麻布の生活は刺激に溢れていた反面、刺激が強すぎたのかいつまでも住み続けられない、と思っていました。スーツを着て会社に出社する人とすれ違うことが本当に少なかったのです。
話が長くなりましたが、私も30歳になって普通の会社員のまま港区ライフから卒業したので、本書の主人公達と同じように、本当の意味で「部屋から東京タワーを見る」生活は送れませんでした。
本書を読むと、東京の生活への憧れが強くなるかもしれませんし、東京の生活が魅力的に感じなくなる人もいるかもしれません。
それくらい本書に登場する主人公達は「リアル」で、だけど「どこか共感できる」人たちばかりなのです。その人たちが東京につまずいて30歳を迎えて何を感じるのかを、ぜひ本書を通して知ってみてください。
私は、個人的に麻布に住んでいたことで、本書のエピソードがより鮮明に心に残りました。
もし住めるなら、人生で1度は都心ライフ、特に港区ライフに挑戦してみると、見える景色が大きく変わってきます。
少なくとも、大企業の上司やエリートの人のほとんどが、高級住宅には住んでいない、ということを実感することで、本当に港区ライフを送るにはどのように生きていけば良いのか、どんな仕事を選ぶべきか、はわかるようになります。
まずは本書を読んで、東京での生活に憧れを持った人たちがどのような葛藤を持って、そして30歳を迎えたのか、疑似体験してみてはいかがでしょうか。